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こうべさんだショップコンシェルジュ

男の流儀 第五回
パティシエ エス コヤマ オーナーシェフ 小山進氏


仁木家様チラシ

Chiffon ご両親の存在について教えてください。

小山シェフ

 僕はケーキ職人の息子なんですけど、母に「ケーキ屋にはなるな」と言われて育ったんですね。そのことが頭の中にすごく残っています。最初はなんでそう言うのかわからなかったけど、大きくなるに連れて母が言っていることの意味がわかってきた。それは僕に対する愛情。将来僕が家庭を持った時のことを考えてのことだったんでしょう。父にとって、一生懸命取り組み続けたケーキ屋という仕事。それを見て母親が家庭の時間がなかなかとれずにつらい思いをしたのもなんとなくわかった。でも父が何十年も続けた仕事をやめとけと言われたのは僕にとってはつらかった。高校生になり、クリスマスに父のところでアルバイトをして、子供の頃の遊び場だった父の厨房が、時給をもらって働く職場に変わっていった。そのことが、改めてケーキ職人を志すきっかけになったんです。父はおとなしいけど職人気質的なところがあり、仕事に一生懸命であることはわかっていましたが、あまりにも優しく、人にものを頼むということがものすごく苦手であることを感じたんです。優しさにも色々あると僕は思うんです。父は人を育てようとか、人に影響を与えたり、世の中を変えよう、というよりは、美味しいお菓子を作りたいという思いの方が強かった。
ある事をきっかけに決定的にこの道に進もうと思った。それはクリスマスケーキを作っている時のこと。そのお店は和菓子も取り扱っていたのですが、父と僕が一生懸命ケーキを作っているのを尻目に和菓子職人の方々は普通に帰っていく…。それはおかしいやろ、と。高校生の僕は和菓子職人のおっちゃんに「ちょっと手伝ってくれてもいいんちゃうか」と詰め寄ったんです。父には怒られたけど、その事がきっかけで僕はもっと違う形で─チーム感を大切にする洋菓子店を創ろうと思ったんです。
最近になって、父に「なんで仕事続けてきたん? 」と聞いたら「作るの好きやねん」と。父の根幹にある想いを聞けて本当に嬉しかったな。
母がこどもの頃の僕にしてくれたことで、今の僕に特に影響を与えてくれていることが二つあります。
  一つは落書きを思いっきりさせてくれたこと。最初は広告の裏に書いていたけれど、そこには納まりきらなくて。そうしたら模造紙を用意してくれた。それでも足りなくて、それをつなげて…。僕の絵はいつもはみ出て床や壁にまでつながっていたんです。もちろん、後で消すように言われたんですけど、決してそんな僕の落書きを止めず、気が済むまでさせてくれたんです。今考えると、そこから枠にとらわれない物の考え方を学んだような気がする。自分が親になってみると「ちょっと待って!」と言ってしまうと思います。でもそこをグッと我慢する事が大事なのかなぁと思います。
もう一つは昆虫好きの僕に、ドイツ語で書いてあるような、見るからに高そうな昆虫図鑑を買ってくれたこと。決して裕福ではなかったのに。こどもながらにそれがすごく高いもの、ということはわかったんですよ。それですごく大事にしました。ますます昆虫が好きになってね。蝶が苦手だったのですが、それ以外の昆虫はなんでもわかります。どの虫がいつ、どこで採れるか、なんていうのも全部覚えましたし、当時日本で確認されている昆虫の名前はなんでもわかる。毎年スタッフと虫とりに行くんですが、誰よりもたくさん捕まえます。どんな虫の名前も言える。エスコヤマにも色々な虫がいるから、どの木に何が集まっているか、なんてことを話したら庭師の松下君にも驚かれます。でも、あの昆虫図鑑がなかったら、そこまで「熱中」しなかったかもしれないなと思うんですよ。あれが何かに対してどこまで好きになれるか、「熱中」の一つめの体験でした。そしたら、次からは虫を超えるものを模索するように。あれだけ夢中になれたこと、その体験が自分の中での普通レベルになるんですね。その姿勢が今の僕にとっての「自分スタンタード」になっているのかな。

 

Chiffon それはケーキづくりとは関係ありますか。

小山シェフ

 めちゃくちゃありますよ。結論めいたことになりますが、ケーキ屋やから美味しいケーキを作るのは当たり前。その美味しさってどんな美味しさかというと、その人がどんな人で、どんな経験をしたか、というところからしか生まれないと僕は思っています。先輩が教えてくれた通りに作ったらそこそこのケーキは作れるようになるけれど、そこにいかにその人なりの言葉、感性、思いをのせるか。どんなフィールドで提案するか。ケーキを取り巻く周辺がどれだけ楽しくて豊かで、優しいか。人が何を求めるのかをいかに感じられるか、多くの人が共感してくれる基準を自分が持っているかが大事だと思う。
自然を愛したり虫を愛したり、木を植えてそれを維持したり。続けることって大事だけど難しい。こういう場所に店を構えていることにもつながります。たとえば蝉が今年は鳴かない、「なんでやろ?」とかね。そういう変化を感じることが大事。
ケーキに使う苺を見ても、ひとくくりに苺、としか思わない人もいるけど、僕は食べないとわかんないから。それは誰から教わったわけでもなく、僕の中の当たり前。それを教えてあげないとわからない人もいるし、教えてもわからない人もいる。だから、こどもの頃から大事なものを見極める力を養うことってすごく大切だし、どんな世界でも通用するんですよ。
エスコヤマの新人スタッフはほとんどが19歳から入ってきます。その子達も私は一生懸命育てるけど、僕の力ではどうにもならない部分がある。それは子供の時に学んでおかなければいけない事「子供力」です。だから、できれば幼稚園とか、もっともっと小さい時点からの教育に関わりたいんです。僕だけでなく、周りのクリエイターも同じことを言っています。あらゆる分野のプロフェッショナルが日本の未来を担う子どもたちに関わっていかないと。学校の先生だけでは教えられないことがありますからね。はみ出し者って面倒くさいでしょ。でも、母は僕が紙からはみ出すことを面倒くさがらず、好きに書かせてくれた。その教育は学校では教えてくれないこと。うちの家庭の風土にあった教育。日本の学校って基本的に標準が好き。先生にとってそれが一番ラクだから。でもその標準では世界に通用する感性は育つわけがない。
僕はね、製菓学校に講師でいくと、ものすごく不真面目そうな生徒を集めて前に座らせるんです。そうすると、彼ら嬉しそうなんですよね。自分に興味をもって声かけてくれるものだから。そして、そういう子がエスコヤマのスタッフになったりもします。煙たがられることが多い子たちですが、そういう子の方が面白い。でも、もちろん当たり前のことを当たり前にしないと人に理解してもらえないことを教えます。本当に自分のために、自分のことを思って言ってくれているということが伝われば、理解しあえるからね。
駄菓子屋を作りたいんですよ。来年中に…予定は未定だけど。駄菓子屋は僕らに夢を与えてくれた。10円玉を握りしめてどれを買うか、どのあてもんをするか。ドキドキ感がありました。それを、全部身体にいい素材で、こどもにあったポーション、こどもサイズのショーケースに100円までで買えるような商品をいっぱい並べたい。この企画は全部こどもの目線です。
この計画、いろんな人に言うようにしてるんです。いつも何かを始める時、「これだけ広めたら後にはひけない」というくらい会う人、会う人に言い回るのが僕のパターン。そしたら、アートディレクターや放送作家など、ジャンルは様々ですが、いろんな人がいろんな意見をくれ、いろんな人が協力してくれるんです。みんな日本のこどもの将来を願ってる人ばかり。それぞれ立場は違っても、自立心を養わせないといけないということを、人を育てる中で実感してるから。
なんで日本はこうなってしまったんだろう、というのが僕らの共通の気持ちです。今の若者たちと接していて、物は豊かになったけれど、どこか自分たちの時とは違うものを感じて、その欠落している部分を取りもどしたいと思っているんです。管理社会の中で、窮屈に生きるのではなく、本当に自分らしく生きることを教えてあげたい。規制の中でガマンしてるから、面白いことができない。ガマンしてるから卑屈になる。そうじゃなくて、ガマンしなくてもいい生き方を思い出してもらえるきっかけになればいいなと思っているんです。

 

Chiffon コヤマさんの駄菓子屋、大人の私たちもぜひ行ってみたいです。

小山シェフ

 ショーケースの中にもワクワクするようなしかけをつくって、大人、特におやじ達がうらやましがるものを創りたいですね。
職業的には僕はパティシェですが、あの人、何屋さんなんやろって思われる存在でいたいんです。ケーキは自分の中の一部。もちろんケーキが思いっきり美味しくないとダメですけど、伝えたいのはケーキの味だけではない。ケーキは伝える手段のひとつ。ケーキでは伝えきれないことは言葉でも何でも、いろんな手段で表現します。ケーキで全てを表現できたらいいけど、それだけでは伝えきれないことがあります。パッケージや敷地内の庭や壁画など、あらゆることで表現しています。壁画も、友人のアートディレクターが手がけて下さったんですが、僕らと同世代のお父さんが感慨深げに見上げておられているのを見ると嬉しいですね。
僕は夢はもたない。その時その時の目標しかない。よく、「すごい夢をお持ちでしょう」と言われるが、やらなくてはいけないことをやっているだけ。やってみないとわからない。独立する時は、ただ「庭付きの一軒家」というスタイルしか決まってなかった。始めたら自分がしなくてはいけないことや責任は見えてくるもの。だから当初はメディアにも「自分の考えや想い」は一切発信しなかった。日々が教えてくれて見えてくると思ってましたからね。今は「やりたいこと」ではなくて「やらなくてはいけないこと」がわかります。で、それに向かっていると、また次やらなくてはいけないことが見えてくるんです。

 

Chiffon エスコヤマさんの美味しさは“共感”。その小山さんとエスコヤマの思いを、私たちはケーキを食べることで共有共感しているんですね。

小山シェフ

 前から今のエスコヤマの形を描いていたわけではないですし、これだけの敷地も、最初から広げようと思っていたわけではないんです。どうやったらお客様が並ばないですむか、を考えたら結果的にこうなっただけなんですが、人って、常に変化する空間が好きなんですよね。


店内

 

Chiffon 駐車場からここまで歩いただけなんですが、違う町に来たような、どこか観光地に旅行にいったような、そんな気持ちになりました。

小山シェフ

 常に人の気持ちのレベルを変化させることが大事です。お客様に、スタッフの一人が前に比べて逞しくなったことを感じてエールを送ってもらえるような、そんなお店でありたいんです。植物もオープン当初からしたらすごく立派に成長しました。もちろん松下君のお陰だし、スタッフが当番を決めて水やりしてくれたこともある。
うちはね、お菓子作り以外でもプロジェクトを組んで、いくつものチームがいつも同時進行で動いてるんです。例えば駐車場の見回りプロジェクトなんかもあります。どうしても駐車スペースに限りがあるのですが、地域の方にご迷惑にならないよう、コヤマの駐車スペース以外の場所に車を停めておられる方にお願いしてまわるんです。どうやったら気持ちよく動いて頂けるか。笑顔で動いて頂くために、頭を下げる勉強。

 

Chiffon 敷地内を歩いていたら、本当にスタッフの方が皆さん挨拶をしてくださるんですよね。

小山シェフ

 これだけお客様と話す機会が多いお店って珍しいと思いますよ。でも僕はケーキづくりの技術を覚える事もプロとして大切ですが、人と話すことから学ぶことの方がもっと大事やと思うんです。今年の新人のパティシエ達も8割方は販売からのスタートです。
最近小学生や中学生向けの新聞の取材を受けるのですが、「ケーキ屋になるためにはどうしたらいいですか」という質問には「行けるんやったら大学にいった方がいいで」と答えてるんです。なんでかというと、大学に行ってる間に本当にケーキ屋になりたいかじっくり考えられるから。それでもなりたかったらなったらいいし、通ってる間にいろんな友達を作ってほしい。彼らがどの方面に進むわかんないけど、色んな分野の友達を増やしてからケーキ屋になった方が、いろんな可能性のあるケーキ屋になれる。だから急いで資格をとったりしなくても、大学行って、アルバイトもして友達と遊んで、いろんな経験をしたらいいと思う。僕が大学にいってないから、逆にそう思うんです。
早くにこの世界に入ってカスタードクリームの作り方を人より早く覚えたとしても、ケーキ作りに関してはずっと続けていかないといけないわけでしょ。マラソンと一緒で、初めにとばしたところで息切れしてしまいますよ。だから早くこの世界に入った人には、それだけの「人より長く続けなければならない」というリスクを背負えているか、と問うんです。その覚悟がなければ人の上には立てないぞ、と。
ただ美味しいケーキを作っていればいいというのではなく、僕たちは表現者…伝えるのが仕事ですから、伝えたいと思う気持ちと次から次へと溢れ出すネタ、伝える技術、感性がなければケーキにもそれがのらない。手に職をつけるだけではなく、伝えたことを明確にし、伝えたい事でいっぱいの人になること。

 

Chiffon 小山さんにとって、三田はどんな存在ですか。

小山シェフ

 虫とりから始まっているように、僕のホームグラウンドはどちらかというと郊外なんです。振り返ると、これまでは三田を深く知るための準備期間でした。三田近辺には、三ツ星のレストラン、選ばれた料理人しか使えないような日本一の野菜がある。苺やチーズ、栗もそう。素晴らしい素材がある。数年前に素晴らしいチーズに出会ったのですが、このチーズを使うのは今じゃない。もっと落ち着いてしっかり向き合えるようになってから、とずっと思っていたんです。その時を待っていた。そして今、ふんだんに使っています。生ケーキやパン、サラダに使うチーズもそちらのチーズに変えました。三田産の出来たてのフロマージュブランを届けてもらえる、そんな環境そうはないでしょう。苺も朝づみ。スタッフにも実際に農園に行って苺のつや感を見てこい、そして、そのつや感を大事にしろと教えています。
立杭の陶芸家やカフェ…。ケーキ屋とは違うジャンルで活躍している人との情報交換もとても楽しいですね。みんな三田に来てから知り合った人。元々は人見知りで一人が好きなんですけどね。今、面白いですよ。
三田には素晴らしい料理人もたくさんいらっしゃる。東京や神戸、大阪の有名な料理人の友達を連れて行ってもみんな感動してくださいます。「このロケーションでこれやられたら俺ら負けるな」一流の料理人達がそう口にする、わざわざいかないと、という、そのための場所、っていうのが三田にはあるんですよ。三田はこれから先、わざわざ美味しいものを食べに行く町、美食の町にできる。それだけの素質がある街です。こだわりの料理人もいらっしゃいますから。
昨年の社員研修旅行でスペインのバスク地方に行ってきたんですが、バスク地方は星付きのレストラン数が面積あたり世界一。その星付きのレストランは三田と同じように山の中にあるんですよ。三田には同じような環境がある。三田はロケーションとしても、都会の料理人が強く魅力を感じるだけのものですしね。
誰かが自然のロケーションを活かしたテナントを、才能のある若い料理人たちに開いてあげたら、彼らは食の町を展開してくれるのではないでしょうか。一からやるのは大変だけどね。でもみんな三田に来たがっています。そういう時代なんですよ。食の周りにあるものを通して毎日を充実させたいと願っている。僕のやりたいこともそういうことなんです。ケーキの周辺のことを整えたい。あそこに行けばお土産話ができる。人に伝えたくなる。そんな場所を作りたいんです。
今は楽しんでいますが、オープン当初は明日は今日よりよくしよう、その繰り返しでした。オープンした時から、思い描いたような店ができたわけではない。「5年待ってくれ」とずっと思っていました。最初からやりたいことを100%できるわけがないから、スタッフと一緒に時を過ごして、自分の風土感を伝えて、共有できて、少しずつ築くもの。
「はじめるプロジェクト」(※1)もそう。人との出会い。いつも偶然、たまたま。だから、その人に自分と同じベクトルを見ている人間だと思ってもらえないと何も始まらない。相手が同じベクトルかどうか見極めることも大事。大事にしていることがどこかで似てるからできること。そう考えると引き合う人とは偶然ではなく、必然なのかもしれませんね。
何かをするには、企画者が熱くなかったらダメ。今回のマクドナルドの「ハッピーセット」(※2)は、マクドナルドとエスコヤマの「人材育成を大切にしている」という共通点から頼まれた企画です。全国展開をするマクドナルドさんにしたら僕なんかと付き合うにはリスキーだけど、企画者の熱意があって実現しました。つまり、物にはやり方があって、企画者が楽しみ、熱くならないとおもしろいものはできない。後は、何をしたいかというコンセプトがしっかりしていること。民主主義に屈しないパワー、忍耐力、リーダーシップ、諦めないド根性、その企画をどれだけ思っているか、が大事。
何がおもしろいか。どのギャグがうけるか、が見極められないとだめ。うちのスタッフに何を教えているかというと、人がおもしろいと思うセンス、おもしろがらせるツボがわかるかどうか。人がおもしろくなさそうな顔をしていたら、自分はおもしろくないということをわかればいい、そして、じゃあ自分に何ができるかを考えられる人になってほしい
  僕が三田にできること。各地から人に来ていただき、三田の良さを広めることはできると思います。お客様としても、半分は市外からのご来店で、毎日3000名以上の方がいらっしゃって、来店して下さった方は、皆さん三田を気に入って帰られる。うちに来られたのがきっかけで、三田を気に入り、わざわざ越してこられた方もおられるんですよ。スタッフもフランスをはじめとする海外からわざわざ修行にきてくれています。そういう形で三田と関わり、これからもっと深く関わっていきたいです。

 

Chiffon 今の小山さんの目標は。

小山シェフ

 いつかバウムクーヘンの工房を山の中に作りたいですね。この近辺で。僕にとって、バウムクーヘンは木こりのイメージなんですよ。それと、一品菓子も極めたいです。たとえば饅頭なんか。僕は京都生まれなのでね。でも、中途半端なものは作りたくないのでじっくり…。それから、生ケーキの店をこの敷地の中で独立させて…。今は、お客様にご不便をおかけしているので、もっと買いやすくしたいです。
今年は僕にとってチョコレートの年。パリで開催される世界的なチョコレートの祭典「サロンデュショコラ」にノミネートされていて、その大舞台で日本の素材とチョコレートのコラボレーションをテーマとしたデモンストレーションもするので、それを成功させること。
うちではフェアトレードのチョコも使っていて、その関係で4年前に行ったエクアドルに再び行き、フェアトレードの現状を再調査する予定もあります。
それから「ハジメルプロジェクト」。僕の周りにはたくさんクリエイターがいるので、一つのプロジェクトの進行がすごく早いんです。この企画はそのスピードを利用したプロジェクト。こういうことは長く続けないといけないと思っているので、今は秋頃からの第二弾を構想しています。東北の風評被害にあった、安全だけど売れにくい野菜を使ったお菓子。特殊技術でパウダーにしたものを使おうと考えています。小麦粉は使わずに。野菜のお菓子って美味しいイメージがないかもしれませんが、これはむちゃくちゃ美味しいですよ。
実は、先日ハジメルプロジェクトのメンバーで被災地へ行ってお菓子をお渡ししてきました。現状を自分の肌で感じると、本当にこのプロジェクトは続けていかないといけないと思いました。その時にお会いした山形県の庄内にあるレストラン「アル・ケッチァーノ」の奥田シェフにこの話をしたら、生産者の方を紹介していただけるようになりました。支援しながら、身体にもやさしお菓子を。普段はなかなか実現しにくい形の支援です。全国で約150店舗が共感して参加してくれています。

 

Chiffon ハジメルプロジェクトで今回のお菓子を起用された理由は。

小山シェフ

 「はじめのいっこ」は新開発の卵白成分のパウダーを使っていて、独特の食感と本物の果実の香りを感じていただけるお菓子です。果実をそのまま泡立てていましてね。食べた時に幸せになっていただけるようなお菓子、そう思って作りました。色、様々な食感、香り、後味…、パステルカラーの優しさ。コンビニエンス的なポップな軽さがありつつ、最新の技法と職人の技術力、パッケージからのメッセージ性。ケーキ屋さんもお客様も、誰もソンをしないものを作りたかった。このグレードの商品がこの価格で本当に義援金が生まれるの?っていうような、完成度の高いものを。そうじゃないとイヤなんですよ。サービス精神がそこにないと。
僕は実験が好きなんです。面白い。素材の水分量や繊維質の含有量によって出来上がりが変わる。だから、繊維質のないものは、繊維に変わる素材を隠し味として入れてやる必要がある。

 

Chiffon 当たり前ですが、職業がら小山さんは味覚が鋭いんですね。

小山シェフ

 母の料理のおかげでぼくの舌は薄味を感じられる舌みたいです。薄い中に何が入ってるかを見抜きます。京都の出身ですからね。生まれ育った土地ならではの味の風土の影響でしょう。でも、実は母は京都の人じゃないんですよ。最近思ったのですが、たぶん食の職業に携わる父親が色々なリクエストを出したからではないでしょうか。男の人のリクエストで、女の人の料理の腕はあがるものだと思います。

 

Chiffon ロールケーキにしても、今回新しくつくられたチーズケーキにしても、どこにでもある定番のお菓子ですが、コヤマさんのものは、特別! と思います。

小山シェフ

 今迄食べたロールケーキの概念をいい方に覆す。記憶の更新です。
新しく出す時ってそれなりにいつもプレッシャーを感じてるんですよ。チーズケーキにしても「何で今か!!」が大事。チーズケーキの文化ってここ10数年あんまり進化してないなと思って。それで今すべきだと思ったんです。どんなふうに変えるかというイメージはありました。粉は殆ど使わず、焼き時間はたった9分。持てるか持てないかのぎりぎりの柔らかさに仕上げてます。パッケージのこの黄色と黒のコントラストが僕のチーズケーキのイメージだったんです。

Chiffon エスコヤマさんの敷地の中を歩いていたら、屋外なのにすごくいい香りなんですよね。

小山シェフ

 換気扇の位置まで計算していますから。でも失敗したら大変ですよ。焦げた匂いが漂いますから(笑)。そんな時はお客様に謝って回るんです。庭の木々も、7年間、この甘い香りをすって大きくなった。最初はすぐ枯れたりもしたけれど、熱気にもガマンして、その代わりケーキのいい香りはここにいる特権やと思ってくれてるんでしょうか?(笑)。

 

Chiffon エスコヤマさんにくると、歩くだけでも楽しくて癒されます。お客様へのメッセージをお願いします。

小山シェフ

 お客様というより、こどもたち、お母さん、お父さんに伝えたいことがあります。
今回の夏のカタログ(※3)に掲載している昆虫写真家との対談。この方も本当に素晴らしい方で、対談記事も普段の会話を誌面にしただけなんです。このカタログには夏休みを大事にしてほしいとう気持ちがあります。子供はまさしく今、将来の思い出になる一日を過ごしている。感動的な“あの日”になるようにつき合ってあげてほしい。日本には四季それぞれの趣きがあって、特に子供にとって夏は特別な季節。大人には夏休みはないけど、こどもにとっては夏休みがあって、その時を過ごしている。それを大事にしてあげてね、というメッセージをこめているんです。だから、ここに家族でこられた時も、こどもには庭で自由に遊ばせてあげてほしいし、お父さんもこどもに返って一緒になって遊んでほしい。子供の頃の事を思い出して、子供のような感性で今を感じてほしい。それぞれの感じる感性があると思うのでね。そして感じたことを人に伝えてほしいんですよ。
  「僕なぁ、昨日すっごいケーキ屋行ってん」。敷地内の庭、パッケージ、商品…。楽しかったことを人に伝える習慣のある人は人の悪口を言わない。人に良いこと、楽しいことを伝えないと悪口を言う時間ができてしまうんです。24時間の使い方って大事です。楽しいことを伝えられる、そういう人を増やしたい。だから、人に伝えたくなるような店を作りたいんです。お客様は比べる対象がある。比べる対象があるから語りたくなる。伝える楽しみができる。
パティシエ エス コヤマの「es」は無意識下の欲求という心理学用語なんです。簡単に言うと自分では抑えられない、食べたくて食べたくて仕方がない欲求が湧くようなもの。そんな欲求に一番に名前が挙がるようなお菓子をつくりたいんです。どうせ行くならエスコヤマ、と選ばれるお店になりたいと思って付けたんです。
ケーキ屋が言うことじゃないかもしれませんが、日本のこどもたちに世界に通用する感性を育ててあげたいと思っています。だから何でもやらしてあげたいし、そういう空間をつくりたいし、そこで自由に動き回るこどもたちを見守ってあげてほしい。マクドナルドの仕事もそう。僕が子供の頃はあんなお菓子の家のおもちゃなかったもん(笑)。僕がこどもの時はこういうケーキ屋もなかったから、ここに来た子がお菓子屋を作ったら、もっとすごい店ができるかも。そういうことにつながればいいな。
  「FUKAN」(※4)は働くお父さんに何かエールを送りたいと思って作りました。僕はケーキ屋だけどケーキ屋じゃないと思っているとこもあって…、だから、世の中のお父さんに読んでもらって、業種は違うけど、ああ、同じやな、と共感してもらえるようなことを発信していきたい。
こういうとこでやっているからか、季節ごとの良さを大事にしています。季節によって空気も変わるし、鳥の声も近くなったり遠くなったりする。うちに来て、そういうことからこどもの頃を思い出してほしい。そしてこどもにもそういう環境を与えてあげてほしいですね。

 

Chiffon このカタログを拝見したら、忘れていた夏休みが甦っている感じがしてきて…なんかワクワクしたんですよ。

小山シェフ

 僕が伝えたいのはそういうことだけなんですよ。このお菓子おいしいって言ってもらったら嬉しいけど、それよりぜひ一度実際に来ていただき、じっくりと歩いて感じてほしいんです。人にもらって食べた小山ロールと、この中を歩いて食べたケーキはまた違うと思うんでね。この季節、特に朝夕で香りが違います。そういうことって普段都会を歩いてても感じませんが、こどもの時は確かに感じたんですよ。それを思い出してもらえたらいいなあ。そして、そういうことを感じた上でエスコヤマのケーキを食べてほしいですね。夕方の香りをちょっと寂しく感じたり…。でもすごく好きなんです、特に夏の香りは…。

 


Chiffon 敷地内の庭でこどもが遊んでいたんですが、それがすごく絵になっていて。ケーキって一人でも買いにいけますが、エスコヤマさんは家族で買いにきたいお店ですね。確か、夏には紙コップでジュースをサービスしてくださいますよね。

小山シェフ

 一日何十リットルにもなります。すべてオリジナルのレシピで作っているんです。中途半端は嫌いなので。駄菓子屋も楽しみにしていてくださいね。
ここにこられるきっかけは色々だと思います。お父さんは最初は運転手かもしれない。でもそのうちお父さんの方から「行こうや」と言ってくれるような、お父さんはお父さんで楽しめるお店にしたいんです。
もちろんスイーツ好きの女性を意識した商品づくりもしていますが、実は男性目線で作ることが多いんですよ。小山プリンも小山チーズも。もし小山チーズのCMのディレクションするなら、モデルはマダムじゃなくて鉄工所のおっちゃんなんですよ。さすがええもん作ってるだけに美味しさわかってるなぁ、年期の入った工場でストーブにはやかんがかかっていて…みたいなイメージで映像を作りたいんです。
やってみないとわかりませんが、エスコヤマは変化しても違和感がない店。どうして僕がそう思って、そういうふうに変わったか、がちゃんと説明できたらいいと思う。ただ、ロールケーキのパッケージ一つ変えるにしても、テストして検証してコンセプトをお客様に説明します。そういう慎重なところもあるんですよ。エスコヤマの商品はデビューした時点で僕だけのものじゃなくて、皆さんのものになると思っていますのでね。僕の勝手でパッケージデザインは変えられないんですよ。
ここ10年、ケーキ屋には行ったことがないんです。別に意地をはっているんじゃなくて、いいものを食べたら見て同じものを作りたくなるからイヤなんです。料理は変換プラグを用意しないとお菓子にできないけれど、よそのケーキ屋に行って美味しいものに出会ったら、そのまま作りたくなってしまうんですよ。だから行かない。若いパティシェにはできるだけ行くように薦めるけど、僕自身は行かない方がいいと思う。おいしかったら美味しいっていうし、何でもいいものは評価しますから。

 

Chiffon 私生活でも3人のお子さまのお父さんでいらっしゃいますよね。

小山シェフ

 上の二人が小さい時は、修行で忙しくて一緒にいる時間なかったから、今すごく一緒に過ごす時間を大切にしています。上の娘とはバンドを組んだり、ギターの練習一緒にしたり。ミスチルが好きなので一緒にコンサートにいったりね。息子にはAKBのチケットとってあげたり、一緒に映画を観に行ったり。ナルトっていうアニメも好きなんだけど、AKBやらナルトにも、すごい学びがあるんですよね。総選挙の順位を当てるとかね(笑)。完成度の高いプロフェショナルな世界だと思います。

 

Chiffon まだ小さい赤ちゃんもいらっしゃるんですよね。

小山シェフ

 一番下はね、そりゃあ可愛い。日に日に成長する姿を見るという体験が初めてのことなのでね。すごい可愛いですよ。昼は家に帰って一緒にご飯を食べるんです。チビが生まれてから、特に身体を鍛えるようにもなりました。前は健康のことは気にしてなくて、毎日ものすごいケーキを食べるけど、それを消費しないといけない、という意識はなかったんですよね。でも、この仕事を続けていくなら、健康にも気を遣わないと、と思うようになりました。ホノルルマラソンも2回走りました。トレーニングをしていると自分の身体のことがわかってくる。歩き方、姿勢も変わってきました。自分の弱いところがわかってきて、それをクリアしようと思うようになる。仕事と一緒ですね。結果が出たらおもしろくなってきました。チビが成人するのが僕が67歳の時なんですが、50歳にしか見えない67歳を目指しています。

 

Chiffon 最後に夢をお聞かせください。

小山シェフ

 何度も言うんですけど、僕には夢はありません。そのかわり、目標はいくつもあって、それをクリアしたら次のステージが待っている。その繰り返しです。夢を目標に落とし込めないとダメだと思うから。いかに具体的な目標を映像にできているか。そして、その映像を楽しみながらクリアしていくか、だと思います。

 

(※1)

小山シェフが発起人となって立ち上げた東北大震災の復興支援プロジェクト。5月に第一弾としてメレンゲ菓子「はじめのいっこ」を発売し、売上の一部を義援金に。今後第二弾は「それぞれのカタチ」をテーマに共通のオリジナルパッケージを提供し、全国のパティスリーで焼き菓子を詰めて販売して頂く。
第三弾は風評被害に遭われている生産者の方の野菜で何か?をテーマに考案中。
継続的に続けていく予定。

詳しくは→http://www.hajimeru-project.com/

 

(※2)

小山シェフがプロデュースしたハッピーセットのおもちゃ「お菓子の家」がGWから発売。マクドナルド史上初の4週間販売を実現した。

詳しくは→http://www.orangepage.net/ad/mcdonalds/

 

(※3)

商品の紹介だけでなく、お客様に“読んで頂ける”ギフトカタログ。
「夏休みがくれたもの」と題して、写真家で切り絵作家の「今森光彦さま」と小山シェフとの対談が掲載されていたり、紅茶と焼き菓子のマリアージュ第2弾として、エスコヤマのお菓子に合う紅茶を紹介している。

詳しくは→http://www.es-koyama.com/summer_catalog/catalog.html

 

(※4)

世の中の働いている人にエールを送る目的で、パティシエとして、そして経営者としての目でこの世界を広く深く切り取り、オリジナルなテーマと独自のロジックで展開するエスコヤマ発行のインタビュー・マガジン。

詳しくは→http://www.es-koyama.com/fukan.html